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【近世】クラーケンとは何か?北欧の海に現れた「巨大な怪物」の正体を考える

海賊もビビった(多分)クラーケン

クラーケンと聞くと、多くの人は「船を沈める巨大なタコ」や「海底から現れる怪物」を思い浮かべるかもしれません。ファンタジー作品やゲームでは、触手を持つだいたい悪役の巨大タコ枠で出てくるやつとして描かれることが多いです。しかし、古い伝承や百科事典の記述を追いますと、クラーケンは最初から単純に「巨大タコ」と決まっていたわけではないようなのです。むしろ、北欧の海に伝わる巨大な海獣・怪魚・島のような生物のイメージが、後世になってタコやイカの姿へ整理されていった存在と考えた方がよいでしょう。

18世紀のポントピダン『ノルウェー博物誌』では、クラーケンを「創造物の中で最大で、もっとも驚くべきものの一つ」とし、漁師たちが海底に潜む巨大生物として語っていたことが記されています。

画像はエリック・ポントピダン『ノルウェー博物誌』英訳版, 1755年のもの

目次

クラーケンはどこの伝説か

事実として確認できるのは、クラーケンがスカンディナヴィア、とくにノルウェー周辺の海に伝わる伝説上の海の怪物だという点です。英語では Kraken と書かれ、ノルウェー近海に現れる巨大な存在として語られてきたようです。クラーケンは、ノルウェー沿岸やノルウェー海に現れるとされた怪物であり、後世には巨大イカや巨大タコの目撃と結びつけて説明されるようになりました。北欧の海は寒そうだし(小並感)何か出そう感はありますよね。

ここで注意したいのは、「クラーケンが実在した」と確認できるわけではない点である。確認できるのは、クラーケンについて語った文献や伝承が存在することまででです。怪物そのものの実在ではなく怪物について語った記録がある、という話です。

ポントピダンが広めたクラーケン像

クラーケンの名を広めた人物としてよく挙げられるのが、18世紀のノルウェー司教エリック・ポントピダンである。彼の『ノルウェー博物誌』には、クラーケンが「背の周囲が1.5マイルもあり、海草に取り囲まれて小島の集まりのように見える」ほど巨大な怪魚(ではないか?)として紹介されています。もう怪物というよりほぼ浮かぶ島です。

この記述から見ると、当時のクラーケンは、現代人が想像する「タコ型モンスター」だけではありませんでした。むしろ、海面に浮かぶ島のような巨大な生物、あるいは海そのものと区別しにくい怪物として捉えられていた可能性があります。しかし船乗りからしたら、島か怪物か分からない時点でかなり怖いですよね。

また、伝承ではクラーケンが魚を集める存在ともされたようです。つまり、船乗りにとってクラーケンは単に船を沈める恐怖の怪物というだけでなく、豊漁をもたらす不思議な海の存在としても理解されていたようです。怖いけど魚は集めてくれる。ありがたいのか迷惑なのか分からないですがここらへんは怪物というより他の神々の伝承にも近いものがあります。

なぜ「巨大タコ」になったのか

現代のクラーケン像は多くの場合、現代のイメージだと、だいたい触手が船に巻きついている巨大なタコやイカに近いですよね。ではなぜ巨大タコとして認識されるようになったのか。これは巨大イカやタコの目撃が伝説の背景にあった可能性と結びつけて説明されることが多いです。

これは推測の範囲に入りますが、北大西洋やノルウェー周辺の海でまれに巨大な頭足類の死骸や一部が目撃され、それが怪物伝説と結びついた可能性はあります。巨大イカ(全長10メートル越えのダイオウイカなど)は実在する生物であり海でその一部だけを見た船乗りが、正体不明の巨大生物として語り伝えたとしても不自然ではありません。普通、海で巨大な触手だけ見たら冷静に観察できる自信はないですし。

ただし、「クラーケンの正体はダイオウイカで確定」とまでは言えない。伝承のクラーケンには島のように見える、魚を集める、海に沈む時に危険をもたらすなど単なるイカやタコの観察だけでは説明しにくい要素も含まれているためでだからです。

ダイオウイカはクラーケンの正体だったのか

確定ではありませんがダイオウイカ=クラーケン説を少し深堀してみましょう。ダイオウイカは学名で Architeuthis と呼ばれる大型の頭足類で深海にすむ実在の生物である。伝説の怪物かと思ったら現実の海にもかなり巨大なやつがいるパティーンです。現生の無脊椎動物としては最大級の存在とされ、全長は十数メートルに達する個体も知られています。

ダイオウイカがクラーケンと結びつけられる理由は分かりやすいです。巨大な体、長い腕、深海にすむという謎めいた生態は船乗りが語った海の怪物のイメージと重なりやすく、とくに海上で巨大な触腕や死骸の一部だけを目撃した場合それを正体不明の怪物として語り伝えたとしても不自然ではない。海で巨大な腕だけ見えたら、冷静に『これは頭足類ですね』とは言えない可能性。

ただし、ここで注意したいのは何度も申し上げますが「クラーケンの正体はダイオウイカで確定」とまでは言えない点です。クラーケン伝承には、海に浮かぶ島のように見える、魚を集める、沈む時に渦を起こす、怪魚や鯨のように語られるなど単なるダイオウイカの目撃だけでは説明しにくい要素も含まれていますので全部をダイオウイカだけで説明しようとすると少し無理が出ます。つまりダイオウイカはクラーケン伝説の有力なモデルの一つではあるが唯一の正体と断定するのは慎重であるべきでしょう。実在する巨大生物の目撃、北欧の海獣伝承、船乗りたちの恐怖、そして後世の文学的な想像力が重なって、現在のクラーケン像が作られていったと考える方が自然ですね。

またダイオウイカは巨大な怪物のように見える一方で海の中では捕食される側でもある。特にマッコウクジラはイカ類を主な餌とする歯クジラとして知られておりダイオウイカもその餌になっていると考えられている。実際、マッコウクジラの皮膚にはダイオウイカの吸盤による傷跡が残ることがありダイオウイカの存在はマッコウクジラの胃の内容物から確認されることもある。伝説では船を襲う怪物なのに、現実ではクジラに食べられる側でもある悲劇。

この点は、クラーケン伝説を考えるうえで面白い。人間から見ればダイオウイカは十分に巨大で恐ろしい生物です。しかし深海の生態系では、さらに巨大なマッコウクジラがその上位にいます。つまりクラーケンのモデルになった可能性がある生物も海の中では絶対的な王者ではなかったおやつって考えると面白いですよね。

ただし、「ダイオウイカの多くが必ずマッコウクジラに食べられている」とまでは断定しにくいらしく。確認できるのは、マッコウクジラがイカ類を主要な餌としており、ダイオウイカもその捕食対象に含まれると考えられていることまでであります。伝説の怪物の正体を考える場合も、このように事実と推測を分けて見る必要があるでしょう。

ハーヴグーヴァとの関係

クラーケンは、北欧・グリーンランド方面の海の怪物、あるいはここで急に別の海の怪物が出てきますが鯨のような存在であるハーヴグーヴァと同一視されることがあるようです。この点は面白いかもしれません。クラーケンは「タコ」だけでなく「巨大な鯨」「海に浮かぶ島」「魚を飲み込む怪物」といった複数の海獣伝承と重なっている可能性があるからです。

つまりクラーケンとは一つの生物名というより北の海で語られた巨大海獣伝承が重なり合ったタコ、イカ、鯨、島。もはや海の巨大な怖いもの全部入りの存在だったのかもしれないのです。

結論:クラーケンは実在の怪物ではなく、海の恐怖が形を取った伝承

事実として言えるのは、クラーケンが北欧・ノルウェー周辺の海に伝わる伝説上の怪物であり、18世紀のポントピダンらの記述によって広く知られるようになったということです。推測としては、巨大イカやタコ、鯨、あるいは海上で見える奇妙な自然現象が、クラーケン伝説の背景にあった可能性があります。

解釈としては、クラーケンは「実在した一匹の怪物」ではなく、未知の海への恐怖、巨大生物への驚き、船乗りの経験、そして後世の文学的想像力が重なって生まれた海の怪物と見るのが安全かもしれません。「ロマンはあるが、断定はしない。ここが大事」だからこそクラーケンは、単なる空想のモンスターではない。人間がまだ海の深さを十分に知らなかった時代に、「海には何が潜んでいるかわからない」という不安が形になった存在なのですから。深海がよく分からなかった時代なら、巨大怪物を想像するのも無理はないと思います。

海に関する歴史雑学↓

参考資料・出典

  • エリック・ポントピダン『ノルウェー博物誌』英訳版, 1755年
  • Wikipedia「クラーケン」
  • English Wikipedia “Kraken”
  • Encyclopaedia Britannica “Giant squid”
  • Encyclopaedia Britannica “Kraken”
  • コトバンク「クラーケン」
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