~海賊黄金時代に現れた“伝説の女海賊”~
「女海賊」と聞いて、あなたは誰を思い浮かべるでしょうか。
多くの人は、アン・ボニーや、創作作品に出てくる豪快な女海賊を想像するかもしれません。今回紹介するのは、実在した可能性が高い女性海賊、メアリ・リードです。彼女は「男装して海賊になった女性」として知られています。しかもその人生は、
- 男の子として育てられる
- 軍隊に入る
- 恋をして結婚する
- 夫を失う
- 海賊になる
- アン・ボニーと同じ船に乗る
- 捕まる
- 妊娠を理由に処刑延期される
- 獄中で死ぬ
という、あまりにも波乱万丈なものです。ただし、ここで注意が必要です。メアリ・リードの人生は、裁判記録などで確認できる部分もありますが、幼少期や軍隊時代の話は、後世の海賊本に由来する伝説的な要素も多いです。つまり彼女は、「史実の人物」であると同時に、「物語として育った海賊」でもあるのです。

まず「海賊黄金時代」とは?
メアリ・リードが活動したのは、いわゆる海賊黄金時代です。一般的には17世紀後半から18世紀前半ごろを指し、カリブ海や大西洋では、イギリス、スペイン、フランス、オランダなどが植民地や交易をめぐって争っていました。戦争の時代には、国家公認で敵国船を襲う「私掠船」が活躍しました。しかし戦争が終わると、私掠船の船乗りたちは失業します。そこで一部の船乗りたちは
「じゃあ海賊やるか」
となったわけです。転職先が海賊。治安の悪いハローワーク。
メアリ・リードは本当に実在した?
結論から言えば、メアリ・リードは実在した可能性が高い人物です。1720年にジャマイカで行われたジョン・ラカム一味の裁判記録に、アン・ボニーとともに名前が残っているためです。ただし、問題は前半生です。彼女の幼少期や軍隊時代の話は、1724年に刊行された『海賊史』、英語では A General History of the Pyrates に大きく依存しています。
この本は海賊史を語るうえで非常に重要な資料ですが、同時に物語性が強く、どこまでが事実でどこからが脚色なのか慎重に見る必要があります。三国志でいうなら、正史と演義が混ざって語られている感じですね。
男として育てられた少女
『海賊列伝』系の記述によると、メアリ・リードはイングランドで生まれました。母親は若くして結婚しましたが、夫は航海中に行方知れずとなり、その後に別の男性との間にメアリを産んだとされます。ここで問題になったのが生活費です。母親は、亡くなった、あるいは行方不明になった夫の親族から援助を受けるため、メアリを「男の子」として育てたといいます。つまり、亡くなった息子の代わりに、メアリを男児として見せかけたという話です。
かなり複雑です。現代の感覚だと「そんなことある?」と思うかもしれませんが、当時の女性が一人で子どもを抱えて生きるのはかなり厳しい時代でした。母親にとっては、生きるための苦肉の策だったのでしょう。メアリは幼いころから男の服を着せられ、男の子として育てられました。つまり、彼女の男装は「海賊になるためのカッコいい変装」ではなく、最初は生活のために始まったものだったわけです。
召使いから軍隊へ
やがてメアリは成長し、少女であることを隠したまま、裕福な家庭に召使いとして仕えたとされます。その後、彼女は軍隊へ入ったと伝えられています。しかもただ入っただけではありません。フランドル方面の戦争に参加し、歩兵や騎兵として活動したともいわれています。ここがメアリ・リード伝説のすごいところです。
男装して軍隊に入るだけでも異例なのに、さらに戦場で働いていたというのです。もはや海賊になる前から十分に主人公です。ただし、この軍歴については注意が必要です。裁判記録で確認できる海賊時代と違い、軍隊時代の話は伝記的・物語的な色が強い部分です。
戦場で恋をしたメアリ
『海賊列伝』のメアリ・リード像で面白いのは、彼女がただ男装して戦っただけではなく、恋愛もしているところです。軍隊にいたメアリは、ある兵士に恋をしたとされます。しかし、彼女は周囲には男性として振る舞っています。なので、その恋は簡単には表に出せません。やがてメアリは、自分が女性であることを相手に打ち明けます。そして二人は結婚したと伝えられています。
この展開、急に海賊冒険譚から恋愛小説になります。二人は軍を離れ、オランダ方面で宿屋を開いたともいわれます。しかし幸せは長く続きませんでした。夫が亡くなり、メアリは再び生活のために男装し、軍隊や船乗りの世界へ戻っていったとされます。海賊になる前から、すでに人生が濃すぎる。
そして海賊船へ
夫を失った後のメアリは、再び男性として生きる道を選びます。その後、彼女は西インド諸島へ向かう船に乗ったとされますが、その船が海賊に襲われます。普通ならここで被害者になるところですが、メアリはそのまま海賊側に加わったと伝えられています。このあたりも、どこまでが本人の意思だったのかは慎重に見る必要があります。海賊に捕まって無理やり仲間にされたのか。それとも、海賊生活に魅力を感じたのか。あるいは、生き延びるために海賊になるしかなかったのか。
はっきりとは分かりません。ただ、結果としてメアリ・リードは海賊の世界へ入っていきます。そして彼女が乗ることになるのが、ジョン・ラカム、通称カリコ・ジャックの船でした。
アン・ボニーとの出会い
メアリ・リードを語るうえで、アン・ボニーの存在は外せません。アン・ボニーは、ジョン・ラカムの仲間であり、同じく女性海賊として有名な人物です。メアリとアンは、同じラカムの船に乗ることになります。ここで有名なのが、アンが最初、メアリを男性だと思っていたという話です。アンはメアリに関心を持ちますが、メアリは自分が女性であることを打ち明けたとされます。
このあたり、完全に人間関係が昼ドラです。しかも船長ラカムも絡んできます。ラカムはアンと関係があったため、アンがメアリに近づくことを不審に思ったともいわれます。しかし、メアリが女性だと分かると、三人の関係は落ち着いたようです。海賊船なのに、恋愛事情の方がよほど危険に見えます。
↓実在した海賊アン・ボニーについて↓


メアリは本当に勇敢だったのか?
メアリ・リードとアン・ボニーには、非常に有名なエピソードがあります。ジョン・ラカムの船が討伐隊に襲われたとき、多くの男海賊たちは酒に酔って船倉に隠れていたとされます。その中で、メアリとアンだけは武器を取り、甲板で抵抗したという話です。
これが事実なら、かなり強烈です。男たちが隠れている中、女性二人が戦っている。絵面としても強すぎるし、物語として残るのも分かります。ただし、この逸話も『海賊史』系の記述によるため、多少の脚色は考えられます。
とはいえ、裁判で彼女たちが海賊として有罪になったこと、そしてメアリとアンがラカム一味の中でも特に印象的な存在として語られたことは重要です。「女性なのに珍しいから名前が残った」だけではなく、「本当に戦う存在として認識されていた」可能性は十分あります。
活動期間は異常に短い
ここが意外なポイントです。メアリ・リードの海賊としての活動期間は、かなり短かったと考えられています。長年にわたって大海原を支配した大海賊というより、数か月ほどの活動で一気に歴史に名を残したタイプです。普通なら、そんな短期間の海賊は歴史に埋もれてしまいます。しかしメアリは違いました。
- 男装。
- 軍歴伝説。
- 恋愛。
- 海賊。
- アン・ボニーとのコンビ。
- 裁判。
- 獄中死。
あまりにも物語性が強すぎたのです。キャラが濃すぎて、活動期間の短さをぶち抜いてしまった海賊ですね。
海賊たちは捕まる
1720年、ジョン・ラカム一味はジャマイカ総督の命を受けた討伐隊に捕らえられます。当時、カリブ海では各国が本格的に海賊取り締まりを進めていました。かつては戦争の都合で私掠船や荒くれ船乗りを利用していた国々も、平和になると海賊を邪魔者として扱うようになります。つまり
戦争中「敵国船を襲ってくれて助かる!」
平時「お前ら危険だから処刑な」
という、かなりひどい流れです。用済みになったらポイ。海賊側からすれば納得できないでしょうが、国家とはそういうものです。
妊娠で処刑延期
捕らえられたラカム一味は裁判にかけられます。ラカムを含む多くの海賊は有罪となり、処刑されました。メアリ・リードとアン・ボニーも有罪判決を受けます。しかし、二人は妊娠していると主張しました。当時の法律では、妊婦をすぐに処刑することは避けられました。これを英語で “pleading the belly” と呼びます。
直訳すれば「腹を訴える」。つまり、お腹に子どもがいることを理由に処刑延期を求める制度です。その結果、メアリとアンの処刑は延期されました。
メアリ・リードの最期
アン・ボニーのその後は不明です。
父親に助けられた説、別名で生き延びた説、再婚した説などがありますが、確かなことは分かっていません。一方、メアリ・リードは1721年、ジャマイカの獄中で死亡したとされています。死因は病気だったともいわれますが、詳しい状況は不明です。海賊として暴れ回った末に絞首刑になったのではなく、処刑を延期されたまま、獄中で息を引き取ったわけです。この最期はかなり切ないです。男として育てられ、戦場に出て、恋をして、夫を失い、海賊になり、最後は牢獄で死ぬ。ロマンというより、かなり過酷な人生です。

なぜメアリ・リードは今でも人気なのか?
メアリ・リードが今でも語られる理由は、単に「女性海賊だったから」だけではありません。彼女の人生には、物語として強すぎる要素がそろっています。
- 男装して生きたこと。
- 軍隊に入ったと伝えられること。
- 恋愛と結婚の逸話があること。
- アン・ボニーと同じ船にいたこと。
- 男性海賊たちより勇敢に戦ったと語られること。
- 妊娠によって処刑を延期されたこと。
- そして獄中で死んだこと。
これだけ要素がそろっていれば、後世の人が語りたくなるのも当然です。ただし、彼女を語るときは「全部が確実な史実」とは言い切れません。裁判記録で確認しやすい後半生と、伝説色の強い前半生を分けて見る必要があります。
結論:メアリ・リードは「史実」と「伝説」の境界にいる海賊だった
メアリ・リードは、実在した可能性が高い女性海賊です。しかし、その人生のすべてが確実に確認できるわけではありません。
- 男として育てられた少女時代。
- 軍隊での活躍。
- 兵士との恋と結婚。
- 夫の死後、再び男装して海へ戻った話。
これらは魅力的ですが、伝説的な要素も多く含まれています。一方で、ジョン・ラカム一味として捕らえられ、アン・ボニーとともに裁判を受け、妊娠を理由に処刑延期となったことは、より史実に近い部分です。つまりメアリ・リードは、「完全な空想の人物」ではない。しかし「すべてが確認済みの歴史人物」とも言い切れない。
そんな史実と伝説の境界にいる海賊なのです。だからこそ彼女は面白い。カリブ海の荒れた時代に、男装して生き、戦い、恋をし、海賊として名を残した女性。メアリ・リードは、海賊黄金時代のロマンと残酷さを、これでもかというほど詰め込んだ人物だったのかもしれません。
↓他の海賊たち↓
参考資料・出典
- チャールズ・ジョンソン『海賊列伝』/A General History of the Pyrates
- Encyclopaedia Britannica“Mary Read”
- Encyclopaedia Britannica“Anne Bonny”
- 英語Wikipedia “Mary Read”
- 英語Wikipedia “Golden Age of Piracy”
- Wikipedia「メアリ・リード」
- Wikipedia「海賊黄金時代」


