海賊船と聞くと多くの人はこういう船を想像するかもしれません。
- 黒い旗を掲げる大型帆船。
- 大砲がずらりと並ぶ恐怖の軍艦。
- 荒くれ者たちが奪い取った船。
- 血と煙の中で敵船に突っ込んでいく、いかにも海賊らしい船。
しかし海賊黄金時代にはかなり変わった海賊船がありました。それが リヴェンジ号 です。この船の持ち主はスティード・ボネット少佐。別名「紳士海賊」と呼ばれるバルバドス出身の裕福な地主でした。普通の海賊なら、どこかの船を奪って海賊船にすることが多いでしょう。ところがボネットは違います。
彼は自分で船を買いました。「海賊船を購入する」という海賊らしいのか紳士らしいのか分からないスタートです。しかもその船に大砲を積み、乗組員を雇い、リヴェンジ号と名付けて海へ出ました。今回は海賊列伝とブリタニカ百科事典を参考に、スティード・ボネット少佐の海賊船「リヴェンジ号」について見ていきます。
↓他の海賊たち↓
リヴェンジ号とは?
リヴェンジ号は、スティード・ボネット少佐が海賊になるために用意したスループ船です。
スループ船とは比較的小型で速く沿岸航海や機動的な行動に向いた帆船です。巨大な戦列艦のような迫力はありませんが小回りが利くため海賊船としてはかなり使いやすいタイプでした。海賊列伝では、ボネットが一隻のスループ船を用意し十門の砲を装備し七十人ほどの乗組員を乗せたとされています。この時点で普通の小さな商船とは違います。
- 十門の砲。
- 七十人の乗組員。
- そして船名は「リヴェンジ」。
かなり海賊船っぽいです。しかし問題は船そのものではありません。問題は船長です。スティード・ボネットは、もともと海の荒くれ者ではありませんでした。バルバドスの裕福な地主であり教養ある紳士であり軍人として少佐の肩書きを持つ人物です。つまり海賊船に乗る側というより海賊に襲われる側の人間でした。船は海賊船なのに船長が完全に上流階級。これがリヴェンジ号最大の特徴です。
リヴェンジ号は単なる海賊船ではありません。裕福な紳士が自分の意思で海賊になるために買った船なのです。
スティード・ボネット少佐が船を買った理由
では、なぜボネットはリヴェンジ号を買ったのでしょうか。正確な理由は分かっていません。海賊列伝では、ボネットがバルバドスの名士であり財産も教育もあった人物として描かれます。そのため彼が海賊になったことは非常に奇妙な出来事として扱われています。普通に考えれば彼には海賊になる必要がありません。
- 貧困に追い詰められたわけではない。
- 船乗りとして酷使されたわけでもない。
- 戦争後に仕事を失った私掠船乗りでもない。
むしろ彼は安定した生活を持っていました。それにもかかわらず彼は船を買い海賊になりました。海賊列伝では家庭生活の不満や精神的な混乱のようなものが背景にあった可能性をにおわせています。ただし、これは人物の内面に関する話なので断定はできません。たしかに、いきなり海賊船を買って海へ出るのは、よほどの事情がなければ説明しにくい行動です。
ただ、少なくとも事実として言えるのは、ボネットが海賊になるためにリヴェンジ号を用意したことです。多くの海賊が奪った船で海賊になったのに対し、ボネットは買った船で海賊になりました。この出発点だけで彼がいかに異色の海賊だったかが分かります。
リヴェンジ号の特徴
リヴェンジ号は、スループ船でした。大型船ではありませんが海賊船としてはかなり実用的です。小回りが利き浅い海域にも入りやすく商船を追跡するには向いていました。
海賊列伝では、この船に十門の砲が積まれ七十人ほどの乗組員がいたとされます。十門の砲というのは巨大軍艦ほどではありません。しかし武装の薄い商船を襲うには十分な威圧感がありました。また七十人の乗組員も海賊船としてはそれなりの人数です。船を動かすだけでなく敵船に乗り込むための人数も必要だったのでしょう。ただし、リヴェンジ号には大きな弱点がありました。
それは船長の経験不足です。どれだけ船がよくても指揮官が海を知らなければ危険です。海賊船は、普通の商船以上に判断力が求められます。
- どの船を襲うか。
- どこで補給するか。
- 逃げるべきか戦うべきか。
- 乗組員の不満をどう抑えるか。
- 捕らえた船をどう扱うか。
こうした判断を誤れば、すぐに命取りになります。リヴェンジ号は船としては海賊向きでした。しかし、その船長ボネットは海賊向きだったとは言いにくい。ここにリヴェンジ号の悲劇があります。なんで海賊になった、、、


なぜ「リヴェンジ」という名前だったのか
リヴェンジとは、「復讐」という意味です。海賊船の名前としては、かなり強烈です。
リヴェンジ号
響きだけなら、かなり恐ろしい海賊船です。敵船から見れば「復讐」という名前の武装船が近づいてくるわけですから、あまり気分のいいものではありません。ただし、ボネットが何に対して復讐したかったのかは、はっきりしません。海賊列伝では、ボネットが海賊になった理由について家庭生活の問題が示唆されますが、それが船名の由来だとまでは断定できません。憶測に過ぎませんがもしかすると人生そのものへの反抗だったのかもしれません。植民地社会の上流生活への反発だったのかもしれません。あるいは、ただ海賊船らしい名前をつけたかっただけかもしれません。
名前だけは完全に強キャラ
しかし実際のボネットは最初から強キャラだったわけではありませんでした。
- 船名はリヴェンジ。
- 船長は紳士。
- 乗組員は雇われ海賊。
このアンバランスさが、ボネットとリヴェンジ号を非常に印象的にしています。
ボネットは船長に向いていたのか
向いてない。結論から言えば、ボネットはリヴェンジ号の船長としてかなり不安定でした。
海賊列伝では、ボネットが海賊として大胆な行動を取る一方で船の指揮や海上生活には十分慣れていなかった様子がうかがえます。彼は海賊船を買い乗組員を集めました。しかし船を買うことと船長になることは別です。これは現代でいえば社長がいきなりレーシングカーを買ってプロドライバーになろうとするようなものです。
- 資金はある。
- 装備もある。
- でも技術と経験が足りない。
金で始められるけど、実力がないと地獄を見るやつです。ボネットの乗組員たちも、このことに気づいていたはずです。海賊船では船長の権威はとても重要です。乗組員が船長を信頼しなければ命令は通りません。とくに戦闘や逃走の判断では船長の一言が全員の生死を左右します。ボネットは身分こそ高かったものの海賊たちを完全に従わせるだけの経験と迫力には欠けていたのでしょう。この弱さが、後に黒ひげとの関係で決定的になります。
リヴェンジ号、海賊船として出航
リヴェンジ号は、バルバドスを離れて海賊船として動き始めました。海賊列伝では、ボネットがこの船を率いて航海し、いくつかの船を襲ったことが描かれています。彼は最初から何もできなかったわけではありません。商船を捕らえ積荷を奪い時には船を釈放しながら活動していました。リヴェンジ号は、小型で機動力があり、沿岸や航路上で商船を狙うには向いていたのでしょう。
ただ、ボネットの略奪は、黒ひげのような恐怖の演出とは違います。黒ひげは見た目も行動も相手を圧倒するタイプでした。一方ボネットは紳士が無理に海賊になっているような危うさがあります。しかし海賊船としてのリヴェンジ号は実際に機能していました。船を捕らえ物資を奪い海賊行為を重ねる。
この時点で一応海賊らしいことはしているので、リヴェンジ号は単なる道楽の船ではなく本物の海賊船になっていたのです。
最初の略奪航海
リヴェンジ号の初期の活動では、いくつかの商船が狙われました。海賊列伝では、ボネットがバルバドスから航海してきた船や、スコットランド・イングランド・ニューヨーク方面へ向かう船などを襲ったことが記されています。奪ったものは、食糧、衣類、金銭、弾薬、酒、砂糖などでした。
ここで面白いのは、海賊が必ずしも金銀財宝だけを狙っていたわけではないことです。むしろ、船上生活で必要なものが重要でした。
- 食糧。
- 酒。
- 衣類。
- 弾薬。
- 船の修理に使える物資。
これらは海賊船にとって命綱です。
「宝箱よりまず飯と酒」
リヴェンジ号も例外ではありませんでした。海賊船はロマンの塊のように見えますが実際には補給ができなければ終わりです。水も食糧も弾薬も必要です。船体が傷めば修理も必要です。リヴェンジ号の略奪は夢の財宝探しというより、かなり現実的な補給活動でもありました。
黒ひげとの出会い
リヴェンジ号の運命を大きく変えたのが黒ひげとの出会いです。黒ひげことエドワード・ティーチは海賊黄金時代を代表する存在です。巨大船クイーン・アンズ・リベンジ号を率い恐ろしい外見と大胆な行動で知られました。そんな黒ひげと、スティード・ボネットのリヴェンジ号が関わることになります。
この組み合わせは、かなり対照的です。黒ひげは、海賊そのもののような男。ボネットは、海賊になってしまった紳士。黒ひげは経験と迫力を持ち船団を率いる力がありました。ボネットは船を買う財力はありましたが船長としての経験に欠けていました。
海賊列伝では、ボネットが黒ひげと関わる中で、リヴェンジ号の主導権を失っていく様子が描かれます。この時点で、リヴェンジ号はボネットの船でありながら、ボネットだけの船ではなくなっていきます。
リヴェンジ号を奪われるボネット
黒ひげと関わった後リヴェンジ号の指揮権は大きく揺らぎます。
海賊列伝では黒ひげがボネットの船に自分の部下を置き、ボネット自身は黒ひげの船に移されるような形になります。つまりボネットは自分の船を持っているのに自分で自由に指揮できない状態になったのです。これはかなり屈辱的です。
- 船は自分で買った。
- 名前もつけた。
- 乗組員も集めた。
- 海賊になるための象徴だった。
それなのに、より強い海賊に支配されてしまった。持ち主なのに実質乗っ取られて支配される。リヴェンジ号は、ここでボネットの夢の船から黒ひげの船団の一部へ変わっていきます。黒ひげからすれば、リヴェンジ号は便利な戦力だったのでしょう。小型で機動力があり、すでに武装もあり乗組員もいる。使わない理由がありません。一方ボネットにとってリヴェンジ号は、自分の自由や名誉の象徴だったはずです。
その船を奪われたことは、彼にとって大きな挫折でした。
黒ひげの船団に組み込まれたリヴェンジ号
リヴェンジ号は黒ひげの船団の一部として動くようになります。
この時期、黒ひげはクイーン・アンズ・リベンジ号を中心に複数の船を率いていました。リヴェンジ号もその一角に組み込まれたと考えられます。海賊列伝では黒ひげの船団がチャールストン沖で封鎖を行い人質を取り薬品などを要求したことが描かれています。この事件、黒ひげの大きな見せ場です。
しかし、リヴェンジ号にとっても重要です。ボネットの船だったリヴェンジ号は、この頃には黒ひげの大規模な海賊行動に巻き込まれていました。もともとは、ボネットが個人的に始めた海賊船でした。
それが黒ひげという巨大な存在の中に取り込まれていく。ここにリヴェンジ号の奇妙な運命があります。船そのものは変わっていないのに意味が変わってしまったのです。
- ボネットの船。
- 黒ひげの道具。
- 海賊船団の一部。
リヴェンジ号は持ち主よりも強い海賊に支配されることで別の役割を持つようになりました。
ボネット、リヴェンジ号を取り戻す
黒ひげと別れた後ボネットは再び自分の船を取り戻そうとします。海賊列伝では黒ひげが財宝や物資を持って姿を消し、ボネットが残された乗組員や船の状況に直面する流れが描かれています。ボネットにとって、これは裏切りでした。黒ひげに船を利用され最後には置き去りにされる。
リヴェンジ号は、ボネットの手から離れ黒ひげの都合で使われたのです。しかし、ボネットはここで終わりませんでした。彼は一度、国王の恩赦を受けます。海賊をやめる道があったのです。にもかかわらず、彼は再び海へ戻ります。しかも、別名を使い、リヴェンジ号を改名して行動します。この時点で、リヴェンジ号は単なる船ではなく、ボネットの未練そのものになっているようにも見えます。
「ここで引き返せばよかったのに、戻ってしまう」
ボネットにとって、リヴェンジ号を取り戻すことは自分の失った名誉を取り戻すことでもあったのかもしれません。
リヴェンジ号からロイヤル・ジェームズ号へ
ボネットは後に別名「キャプテン・トマス」として活動します。この時リヴェンジ号は ロイヤル・ジェームズ号 と改名されたとされます。これはかなり大きな変化です。
リヴェンジ。つまり「復讐」。そこから、ロイヤル・ジェームズ。王の名を思わせる船名。
まるで、海賊船が私掠船のように正当化されようとしているかのようです。ボネットは恩赦を受けた後、スペインに対する私掠船活動のような形を目指したとされます。つまり、完全な海賊ではなく合法的な敵国船襲撃へ立場を変えようとした可能性があります。ただし実際の行動はかなり怪しいものでした。
海賊列伝では、ボネットが再び船を襲い積荷を奪ったことが描かれます。船名を変えても、やっていることは海賊行為に近いものでした。「名前を変えても中身が変わってない」。リヴェンジ号がロイヤル・ジェームズ号になったことは、ボネットの立場の揺れをよく表しています。海賊なのか。私掠船なのか。恩赦を受けた元海賊なのか。それとも、やはりただの海賊なのか。
この曖昧さが、彼の破滅へつながっていきます。
最後の戦い
リヴェンジ号、つまりロイヤル・ジェームズ号の最後の大きな戦いは、ケープフィア川周辺で起こります。ボネットはこの地域で船を修理し活動を続けようとしていました。しかし植民地側も彼を放置しませんでした。ウィリアム・レット大佐がボネット討伐に向かいます。海賊列伝では、この戦いで浅瀬や川の地形が大きく関わったことが描かれています。船が座礁し砲撃が続きボネット側も激しく抵抗しました。ロイヤル・ジェームズ号は、ここで最後の戦いを迎えます。
ボネットの船は最初は彼が海賊になるために買った船でした。黒ひげに奪われるように支配されました。その後、改名され再び海賊行為に使われました。そして最後は植民地側の討伐隊に捕らえられます。まさに、ボネットの人生そのものを映した船です。
華々しい勝利ではなく、混乱と挫折と逃走の末に終わる。船の運命までボネットっぽい。最終的にボネットは捕らえられ、チャールストンで裁判にかけられます。
リヴェンジ号はどんな船だったのか
では、リヴェンジ号とはどんな船だったのでしょうか。単にスペックだけで見れば、スループ船です。十門の砲を積み七十人ほどの乗組員を乗せた小型で機動力のある海賊船です。しかし、歴史的に見ると、それ以上の意味があります。リヴェンジ号は、スティード・ボネットの異常な転身を象徴する船でした。
- 裕福な地主が海賊になる。
- 船を奪うのではなく買う。
- 乗組員を雇う。
- 海賊として成功しきれず、黒ひげに支配される。
- 一度恩赦を受けながら、再び海賊行為に戻る。
- 最後は討伐される。
このすべてに、リヴェンジ号は関わっています。黒ひげのクイーン・アンズ・リベンジ号が「恐怖の海賊王」の象徴だとすれば、ボネットのリヴェンジ号は「海賊になりきれなかった紳士」の象徴です。同じ「リヴェンジ」という名を持つ船でも、印象は大きく違います。クイーン・アンズ・リベンジ号は黒ひげの威圧感を増幅させる船でした。リヴェンジ号はボネットの未熟さと悲劇を背負う船でした。
名前は強い。でも乗っている人間の差が出すぎる。リヴェンジ号は、海賊船としては目立つ大艦ではありません。しかし、海賊黄金時代の奇妙さを語るには欠かせない船です。


まとめ
リヴェンジ号は、スティード・ボネット少佐が海賊になるために買ったスループ船でした。十門の砲を備え、七十人ほどの乗組員を乗せたこの船は、海賊船として十分な力を持っていました。しかし、その船長ボネットは、普通の海賊とはまったく違う人物でした。彼はバルバドスの裕福な地主であり民兵の少佐であり教養ある紳士でした。それにもかかわらず自分の財産を使って船を買い、リヴェンジ号と名付け海賊になりました。
リヴェンジ号は、最初はボネット自身の海賊船でした。
しかし黒ひげと出会うことで、その運命は大きく変わります。黒ひげはリヴェンジ号を実質的に支配し、ボネットは自分の船の主導権を失いました。その後、ボネットは船を取り戻し、ロイヤル・ジェームズ号と改名して再び海へ出ます。しかし最終的にはケープフィア川周辺でレット大佐に捕らえられ、ボネットは裁判の末に処刑されました。リヴェンジ号は、単なる海賊船ではありません。それは、紳士が海賊になろうとした夢の船であり黒ひげに飲み込まれた船であり、最後には破滅へ向かった船でした。
スティード・ボネット少佐の人生を一言で表すなら、こうかもしれません。「海賊になりたかった紳士の、あまりにも危うい航海」そしてリヴェンジ号は、その航海のすべてを乗せていた船だったのです。
参考資料・出典
- チャールズ・ジョンソン『海賊列伝 / A General History of the Pyrates』スティード・ボネット章
- チャールズ・ジョンソン『海賊列伝 / A General History of the Pyrates』黒ひげ章
- Encyclopaedia Britannica “Stede Bonnet”
- Encyclopaedia Britannica “Blackbeard”
- Encyclopaedia Britannica “Queen Anne’s Revenge”


