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【三国志】糜竺とは?劉備を財産で救い弟の裏切りに苦しんだ古参臣下

三国志で劉備を支えた人物といえば関羽・張飛・諸葛亮が有名です。しかし劉備がまだ国も持たず戦いに敗れて困窮していた時代に、自らの財産と人員を差し出して彼を救った人物がいました。

その名は糜竺(びじく)です。

正史『三国志』では「麋竺」と表記され、字は子仲。東海郡朐県の人でした。糜竺は武将として戦場で大活躍した人物ではありません。陳寿も彼について軍事的な指揮は得意ではなかったと記しています。

しかしその代わりに糜竺は

  • 劉備を徐州に迎える
  • 財産を投じて劉備軍を救う
  • 妹を劉備の妻とする
  • 使者として劉表との交渉に関わる
  • 蜀平定後には最高クラスの厚遇を受ける

など、劉備の人生に深く関わった古参臣下でした。ところが晩年、彼を待っていたのはあまりにもつらい出来事です。弟・糜芳が関羽を裏切ったのです。今回は、陳寿『三国志』の正史本文と、裴松之注に引用された史料を参考に、糜竺という人物を見ていきます。


目次

正史『三国志』に見る糜竺|一万人を抱えた大富豪

ここからはまず陳寿『三国志』蜀書八「麋竺伝」の正史本文です。糜竺の家は、先祖代々商業によって財産を築いていました。

正史には

祖世貨殖,僮客萬人,貲產鉅億

とあります。つまり、先祖代々商業を営み、一万人もの僮僕や食客を抱え莫大な財産を所有していたというのです。

一万人。驚いた(笑)もはやちょっと裕福というレベルではありません。糜竺は三国志の人物の中でも、かなり大規模な資産を背景に持つ人物だったことが正史から確認できます。

その後、徐州牧の陶謙に招かれ、別駕従事となりました。そして陶謙が亡くなると糜竺はその遺命を受け、劉備を迎えることになります。さらに『先主伝』では病が重くなった陶謙が糜竺に

「劉備でなければ、この徐州を安定させることはできない」

という趣旨の言葉を残し、陶謙の死後、糜竺が州の人々を率いて劉備を迎えたと記されています。つまり糜竺は単に劉備の家臣になっただけではありません。劉備が徐州を得る過程そのものに関わった人物だったのです。


劉備がどん底の時、糜竺は財産を差し出した

建安元年、劉備が袁術を迎え撃つために出陣した隙を突いて呂布が下邳を襲撃しました。劉備の妻子は捕らえられ劉備自身も広陵郡海西へ軍を移します。このとき劉備はかなり困窮していました。

そこで糜竺が行ったことがすごい。正史によれば、糜竺は自分の妹を劉備に嫁がせて夫人としさらに

  • 奴客二千人
  • 金銀
  • その他の財産

を提供して劉備の軍資を助けました。そして陳寿は

於時困匱,賴此復振

と記しています。

「その時、劉備は困窮していたが、これによって再び立ち直ることができた」ということです。

ここは糜竺という人物を考えるうえでかなり重要だと思います。人は成功した者のもとには集まりやすいです。

皇帝になった劉備に仕える。
益州を得た劉備に仕える。
大軍を率いる劉備に仕える。

それなら理解できます。しかし糜竺が大きな援助をしたのは、劉備が妻子を奪われ、軍も困窮し、先行きも見えない時期でした。成功した英雄に乗ったのではなく、まだ何者になれるかも分からない劉備に、自分の財産を差し出したのです。個人的には、糜竺最大の功績は戦場の首級ではなくこの決断だったのではないかと思います。


曹操から官職を与えられても、劉備に従った

その後、曹操は糜竺を嬴郡太守に任命するよう上表しました。しかし糜竺と弟の糜芳は官職を離れ、劉備に付き従いました。劉備が荊州へ向かう際には糜竺が先に劉表との連絡を担当しています。

また『先主伝』では糜竺と孫乾が劉表への使者となったことも記録されています。糜竺は軍事指揮官というより、財産、人脈、外交、そして古くからの信頼関係によって劉備を支えた人物だったのでしょう。ただし陳寿は糜竺を何でもできる超人として描いてはいません。

益州平定後、糜竺は安漢将軍となりその席次は軍師将軍よりも上でした。しかし正史は

竺雍容敦雅,而幹翮非所長

と記しています。

糜竺は温厚で雅やかな人物でしたが軍事や実務的な統率は得意ではなかったという意味です。そのため劉備は実際に何かを統率させることはせず、上賓の礼をもって待遇しました。

しかも

賞賜優寵,無與為比

つまり恩賞と寵愛は比べられる者がいないほどだったとされています。劉備が糜竺をどれほど大切にしていたかが伝わる記述です。


ここからは裴松之注|糜竺の家が焼けた怪異譚

ここからは正史本文ではなく裴松之注に引用された『捜神記』の逸話です。

糜竺が洛陽から帰る途中、一人の女性を馬車に乗せたことがありました。

女性は途中で降りると、糜竺にこう告げます。

自分は天の使者であり、これから糜竺の家を焼きに行くのだ、と。

ただし、糜竺が自分を乗せてくれた恩があるので、そのことを先に教えたというのです。

糜竺が助けを求めると、女性は、

「焼かないわけにはいかない。しかしあなたは急いで帰りなさい。私はゆっくり向かう。正午になれば火が起こる」

という趣旨のことを言いました。

糜竺が急いで帰り、財産を外に運び出すと、本当に正午に大火が起きたとされています。

もちろんこれは陳寿の正史本文ではありません。裴松之が『捜神記』から引用した怪異譚なので実際に起きたことと断定することはできません。ただ糜竺ほどの大富豪にこうした伝説的な逸話が付け加えられたこと自体は面白いところです。


弟・糜芳の裏切り|糜竺にとって最もつらい事件

そして糜竺の人生で、最もつらい場面が訪れます。弟の糜芳は南郡太守となり、関羽とともに任務に当たっていました。しかし正史には

芳為南郡太守,與關羽共事,而私好攜貳,叛迎孫權,羽因覆敗

とあります。糜芳は関羽とともに任務に就いていましたが、最終的に裏切って孫権を迎え入れ、その結果、関羽は敗北しました。弟の裏切りを知った糜竺は、自分自身には直接の罪がないにもかかわらず、自ら後ろ手を縛って劉備の前に出て罪を請いました。

想像すると、かなり胸が痛くなる場面です。糜竺は劉備が最も苦しかった時代に自分の妹を嫁がせ、二千人もの奴客と財産を差し出しました。曹操から官職を提示されても、劉備に従いました。

長い年月をかけて劉備を支え続け、ついには誰にも比べられないほどの厚遇を受けました。それなのに最後は自分ではなく、弟の裏切りのために後ろ手を縛って主君の前に出なければならなかった。

個人的にはこの場面が本当に苦しいです。自分が犯した罪なら、自分で償うことができます。しかし家族が起こしたことは自分には止められない場合があります。それでも兄という立場だから、自分まで責任を感じてしまう。

糜竺がどんな思いで劉備の前に進み出たのかそれは史書には書かれていません。

ただ長年仕えた主君の盟友である関羽が、弟の裏切りによって破滅した。その事実を前にした糜竺の苦しさは、簡単には想像できないものだったと思います。


劉備は「兄弟の罪は及ばない」と糜竺を許した

しかし劉備は、糜竺を責めませんでした。正史には

先主慰諭以兄弟罪不相及,崇待如初

とあります。劉備は

「兄弟の罪は互いに及ぶものではない」

と糜竺を慰めそれまでと同じように厚遇しました。ここは劉備と糜竺の関係を考えるうえで非常に印象的です。劉備にとっても関羽を失ったことは極めて大きな痛手だったはずです。それでもその怒りを糜竺にぶつけることはしませんでした。

糜芳の罪は糜芳のもの。糜竺の功績と忠義は、それとは別。

劉備はそう判断したのでしょう。しかし糜竺自身は、弟の裏切りを乗り越えられなかったようです。正史によれば、糜竺は恥じ、苦しみ、病を発し、一年余り後に亡くなりました


まとめ|糜竺は劉備の「どん底」を支えた人だった

糜竺は関羽や張飛のような猛将ではありません。諸葛亮のような天才軍師でもありません。正史自身が軍事指揮は得意ではなかったと記しています。しかし劉備が本当に苦しかった時代に

  • 財産を差し出し、
  • 人員を差し出し、
  • 妹を嫁がせ、
  • 使者として働き、
  • 官職を捨てても付き従った。

それが糜竺でした。

そして劉備は、益州を平定した後も、その恩を忘れなかったのでしょう。糜竺を上賓として扱い、比べる者がいないほど厚遇しました。だからこそ最後の弟の裏切りがあまりにもつらい。劉備は糜竺を責めませんでした。それでも糜竺は自分を許せなかったのかもしれません。ここは推測にすぎませんが、私は正史を読んでいてどうしてもそう感じてしまいます。人生では、自分がどれだけ誠実に生きても、自分ではどうにもできないことで傷つくことがあります。

家族の問題。
仲間の問題。
誰かの裏切り。

自分は悪くないのに、責任を感じてしまうこともあります。糜竺の最期には、そんな人間らしい苦しさを感じます。それでも、糜芳の裏切りによって糜竺の人生すべてが否定されるわけではありません。

劉備が困窮した時に支えたこと。長年付き従ったこと。徐州から荊州、そして益州へと歩み続けたこと。それらは正史に残っています。

弟は裏切った。しかし糜竺は裏切らなかった。個人的には、その一点だけでも、糜竺という人物はもっと知られていいと思います。

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参考文献

  • 陳寿『三国志』巻三十八・蜀書八「麋竺伝」
  • 陳寿『三国志』巻三十二・蜀書二「先主伝」
  • 陳寿『三国志』巻四十五・蜀書十五「楊戲伝」所収『季漢輔臣賛』
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