死刑台から逃げたが海には勝てなかった男
カリブ海賊といえば、黒ひげやヘンリー・モーガンのような大物が有名です。
しかし『カリブの海賊』を読むと、知名度は高くなくても、人生の濃さだけなら負けていない人物が出てきます。
それが、バルトロメオ・ポルトゲスです。
本書では「バーソロミュー・ポーチュギース」と表記されています。ポルトガル生まれの海賊で、ジャマイカ島を拠点に活動していた人物です。

少数で大型船に挑む
ポルトゲスは、四挺の小銃しか持たない三十三人の部下を連れて、ジャマイカ島を出発しました。キューバ島のコリエンテス岬沖で、彼らはハバナへ向かう大型船と遭遇します。その船には二十門の砲があり、船客と水夫あわせて七十名が乗っていました。
普通に考えれば、ポルトゲス側が不利です。
しかし彼は襲撃します。一度は撃退されますが、あきらめず再び攻撃を仕掛け、激しい戦いの末に敵船を捕獲しました。ただし、勝利は無傷ではありません。味方にも死者と負傷者が出て、無傷の者はわずかだったとされています。
ここは「勇敢」というより、かなり危ういと思います。一度撃退されたのに、もう一度突っ込む。冷静な判断というより、海賊として引けない狂気を感じます。
勝ったのに帰れない
ポルトゲスは奪った船でジャマイカ島へ帰ろうとします。しかし逆風により、帰還できませんでした。
やむなくキューバ島西端のサン・アントニオ岬へ向かい、船を修理し、水を補給しようとします。ところが途中で、ハバナへ向かうスペインの三隻の大型船と遭遇。ポルトゲスたちは損害を受け、せっかく奪った戦利品も取り返されてしまいます。
本書では、捕獲した五万シリング相当のカカオの実も失ったとされています。
勝ったはずなのに、風のせいで帰れない。修理しようとしたら敵に見つかる。奪った宝も失う。海賊の自由って、実はものすごく不安定です。海の上では、勝利すら簡単にひっくり返るんですね。
カンペチェで捕まり、死刑寸前へ
嵐にも襲われたポルトゲスは、カンペチェにたどり着きます。そこで彼は捕らえられました。
町の商人たちは、彼の逮捕を知って大喜びしました。ポルトゲスはそれまで何度も脱走に成功しており、危険な海賊として知られていたからです。治安判事は、彼をすぐに処刑しようとします。
しかし船内に監禁されていたポルトゲスは、その噂を聞き、夜のうちに脱走を決意しました。彼は船倉にあったワイン入りの土製壺に目をつけます。中身を捨て、浮袋代わりに使うためです。さらに見張りの隙を狙ってナイフを手に入れ、夜になると見張りを刺し殺して脱走しました。
ここは完全に脱獄映画に思えますね。ただし、美談とは思いません。彼は逃げるために人を殺しています。だから英雄ではない。でも、死にたくないという執念は凄まじい。壺を浮袋にする発想も、生存本能の塊みたいで印象に残ります。
二週間さまよい、仲間のもとへ帰る
脱走したポルトゲスは海岸に泳ぎ着き、森へ逃げ込みました。町の人々は必死に捜索しましたが、彼を見つけられませんでした。
その後、ポルトゲスは海沿いに二週間も歩き続けます。食べ物は貝や雑草だけ。川にぶつかると、海辺に打ち寄せられた板や木の枝を使って筏を作り、渡ったとされています。そしてついに、カンペチェから約一九〇キロ離れたトリエステ湾に到着します。そこは海賊たちが船の修理や食料補給によく使う場所でした。
幸運にも、彼はそこで海賊仲間と出会い、ジャマイカ島へ帰ることができました。
戦闘より、このサバイバルの方が恐ろしいと感じます。二週間、ほぼ食料なしで歩き続ける。逃げるだけではなく、帰る場所を目指している。このしぶとさがポルトゲス最大の特徴だと思います。私なら餓死するかも。
復讐、そして二度目の失敗
ジャマイカに戻ったポルトゲスは、仲間たちの同情を受けます。彼らは復讐のため、一隻の船と二十名の仲間を提供しました。
ポルトゲスは再びカンペチェへ向かい、以前奪われた船を取り返そうとします。そして油断していたスペイン人を襲い、船を捕獲しました。
ここまでは見事な復讐劇です。しかし海は最後まで彼に味方しませんでした。
船内には高価な商品が満載されていましたが、キューバ島南のピノス島に近づいたところ、猛烈な暴風に遭遇します。船は座礁して沈没。ポルトゲスと仲間たちはカヌーでかろうじて脱出しました。
本書では、彼は再び海賊行為を始めようとしたものの、天は彼を見放してしまったのか、二度目に成功することはなかったとされています。
この終わり方がすごく良いです。脱走して、仲間を得て、復讐まで成功した。普通ならここで伝説になるはずです。けれど最後は暴風で終わる。人間の知恵や執念より、海の気まぐれの方が強い。海賊の物語らしい、無慈悲な結末です。

まとめ
海賊の自由は、海に許された一瞬だけだった
バルトロメオ・ポルトゲスは、英雄ではありません。商船を襲い、人を殺し、脱走のためにも見張りを殺した海賊です。
しかし、物語としては強烈です。
少数で大型船に挑み、捕まり、死刑寸前で脱走し、二週間さまよい、仲間の助けで復讐に戻る。
そして最後は、暴風にすべてを奪われる。
彼の魅力は「偉大な海賊」だったことではなく、異常にしぶとい海賊だったことです。
海賊の自由とは、宝の山を手に入れることではありません。
明日には船も金も命も失うかもしれないのに、それでも海へ出てしまうことです。
ポルトゲスは、死刑台から逃げました。
森からも逃げました。
スペイン人からも逃げました。
けれど最後に、海からは逃げられませんでした。
そこに私は、カリブ海賊という存在の怖さと哀しさを感じます。
参考資料・出典
- ジョン・エスケメリング 著/石島晴夫 編訳『カリブの海賊』

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