農耕以前のヨーロッパでは何を食べていた?肉・魚・木の実から見る食事事情

目次

はじめに

農耕が広がる前のヨーロッパの人々は狩猟・漁労・採集で得た肉、魚介類、木の実、野生植物などを食べていました。
農耕以前にもデンプンを含む植物をすりつぶし加工する例がありました。
ただし食材の種類や比重は地域と時代によって異なりヨーロッパ共通の献立は不明です。

畑で作物を育てる暮らしになる前、人々は周囲の自然から食料を得ていました。その内容は動物の骨、炭化した植物、歯石に残った微細な食べ物の痕跡、調理道具の残留物などから調べることができます。

本記事では主に各地の農耕への移行以前にあたる中石器時代の食生活を扱いさらに古い旧石器時代の植物加工も紹介します。農耕の開始時期は地域によって異なるため各地の証拠を同じ時代の一つの食卓としてまとめることはしません

第一章 食べていたものの一覧

発掘や分析によって確認された代表例を整理すると次のようになります。

食べ物具体例主な証拠
野生動物の肉アカシカ、ノロジカ、イノシシなど遺跡に捨てられた動物骨と、その部位や加工痕の分析
魚・貝類海の魚、淡水魚、カキなど魚骨、貝塚、歯石中の魚の鱗や組織片
木の実ヘーゼルナッツ〔セイヨウハシバミの実〕炭化した殻などの植物遺体
果実・葉・茎ベリー類、野生植物の葉や茎土器に付着した炭化した調理残留物
野生植物の種・豆類イネ科植物やマメ科植物の種調理残留物に含まれる種の組織
根・地下茎などデンプンを蓄える植物の地下部石製の加工道具に残ったデンプン粒、土器中の植物組織
海藻・水草海藻や淡水の水生植物歯石に残った化学成分の分析から報告された食用利用

この表は異なる地域・時代の確認例をまとめたものです。誰もがすべての食材を食べていたという意味ではなく各地で利用された食料の幅を示しています。

第二章 野生動物の肉と魚介類

シカやイノシシを狩っていた

ドイツ北部のフリーザック遺跡では中石器時代の人々が利用した大量の動物骨が見つかっています。主な獲物はアカシカ、ノロジカ、イノシシでした。

研究では肉の多い部位の骨が多く捨てられていることなどからこの場所が獲物を食べた場所だったと判断されています。骨の数だけでなく、残っている部位を調べることで食肉利用の様子に近づけるのです。

ただしこの遺跡でシカが重要だったことをそのままヨーロッパ全体の食事へ広げることはできません。

魚を食べた痕跡が歯に残っている

クロアチアのヴラクノ洞窟で見つかった中石器時代の人物の歯石からは魚の鱗や組織片が検出されています。歯石には植物のデンプン粒なども含まれておりこの人物が魚と植物の両方を食べていたことを示す証拠になりました。魚骨が遺跡にあることに加え人間の歯に食べ物の痕跡が残っている点が、この研究の重要なところです。

貝を集めて食べる暮らしもあった

デンマークのヒャルヌー・スン遺跡では中石器時代の貝塚が調べられています。下の層ではカキ、上の層では別の二枚貝が多く、時期によって利用される貝の種類が変わっていました。こうした貝塚は沿岸の狩猟採集民が貝類を食料として集めていたことを示します。獲物を追う狩猟に加えて水辺で得られる食料も暮らしを支えていました。

第三章 木の実・果実・野生植物も食料だった

ヘーゼルナッツは重要な食料だった

ヘーゼルナッツは北西・中央ヨーロッパの中石器時代の食生活で重要だったと評価されています。ベルギーのスヘルデ川流域の遺跡では炭化した殻が多数見つかっています。研究では脂質を多く含むことや採取・加工のしやすさなどが食料としての利点に挙げられています。木の実を集めることも食べ物を確保する大切な方法でした。

一方、利用の様子は一定ではありません。同流域では森林の変化に伴ってヘーゼルナッツの利用が減った可能性も指摘されています。食生活は、周囲の環境と切り離せません。

果実や葉、植物の種を調理していた

北・東ヨーロッパの狩猟採集民の土器を調べた研究では野生の果実、葉や茎、イネ科植物の種、野生のマメ類などの組織が確認されています。例えばドン川流域ではイネ科植物やマメ類の種の組織が見つかりヴォルガ川上流などではベリー類や植物の葉・茎を使った痕跡が報告されました。ただし残留物の保存状態によっては植物の種まで特定できません。「野生のマメ類が使われた」と言えても現在食べている特定の豆と同じものだったとは断定できないのです。

海藻や水草を食べた証拠もある

歯石の化学成分を調べた研究はヨーロッパで海藻や淡水の水生植物を食べていた証拠を報告しています。海藻についてはスペインの中石器時代の人物の歯石も分析対象になっています。この研究からは海や湖の食料が魚介類だけに限られなかったことがうかがえます。

第四章 農耕以前にも植物をすりつぶしていた

植物の加工はさらに古い旧石器時代にも確認されています。

約3万年前のイタリア、チェコ、ロシアの遺跡で見つかった石製の加工道具からは野生植物のデンプン粒が検出されました。道具の使用痕も合わせて、植物を砕いたり、すりつぶしたりしていた証拠とされています。研究者は検出されたデンプン粒の一部がガマ類やシダ類に由来すると推定しています。これらの植物の地下部にはデンプンが蓄えられています。

ここでは道具にデンプン粒が残っていたことは確認された証拠であり、植物の種類の判定や粉状の食料を作ったという説明には研究上の解釈が含まれる点を分ける必要があります。この発見は、農耕以前にも植物から炭水化物を得て、それを加工していたことを示します。ただし、現在のようなパンを焼いていたとまでは断定できません。

第五章 調理の痕跡からわかることと、不明なこと

北・東ヨーロッパの土器には、植物の組織と魚に由来する痕跡が残っています。研究者は魚と特定の植物を組み合わせて調理した例があったと解釈しています。食材を加工し組み合わせる暮らしは、農耕への移行前の狩猟採集民にも見られました。しかし、残った痕跡から、具体的な料理名、味付け、毎日の献立まで復元することはできません。

食事を考える際には次の区別が必要です。

区分本記事で言えること
確認された証拠食肉利用を示す動物骨、魚の痕跡、木の実の殻、植物の組織やデンプン粒などが見つかっている
研究上の推定・解釈一部の植物の種類、粉状の食料の製造、魚と植物を組み合わせた調理など
不明なこと各食材の正確な摂取量、肉と植物の割合、具体的な献立や味付け、ヨーロッパ全体に共通する主食

植物は保存されにくく、調理残留物の残り方にも偏りがあります。また歯石から食べ物が見つかってもそれをどれほど食べたかはわかりません。農耕以前の食生活について確かに追えるのは各地の人々が野生動物、水辺の食料、木の実や植物などを利用していたことです。その組み合わせを一律に決めるのではなく遺跡ごとの証拠から見ていく必要があります。

参考資料・出典

  • Early Mesolithic hunting strategies for red deer, roe deer and wild boar at Friesack 4, a three-stage Preboreal and Boreal site in Northern Germany
  • Dental calculus and isotopes provide direct evidence of fish and plant consumption in Mesolithic Mediterranean
  • From oysters to cockles at Hjarnø Sund: Environmental and subsistence changes at a Danish Mesolithic site
  • The changing role of hazelnuts (Corylus avellana) in the Mesolithic diet: The Scheldt basin (W Belgium) as a case-study
  • Selective culinary uses of plant foods by Northern and Eastern European hunter-gatherer-fishers
  • Human consumption of seaweed and freshwater aquatic plants in ancient Europe
  • Thirty thousand-year-old evidence of plant food processing
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